わたしには、週にいちど、味わうことのできる、至福の時間があります。
というのは、インドネシア・ジャワ地方のガムラン音楽のサークルに参加しているのです。
ガムランと言っても、ピンとこない方も多いかもしれませんが、かんたんに言うと、インドネシアで発展した、木琴や鉄琴、銅鑼(どら)を中心に、弦楽器や笛、琴なども加わって奏でられる音楽。楽器は、こんな感じです。↓
(写真はウィキペディアの「ガムラン」記事からお借りしました)
ガムランと言えば、中には、バリ舞踊のことを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね。
バリ舞踊も、やはりガムランにのせて踊ります。ただ、バリとジャワでは、同じ「ガムラン」でも、音楽の雰囲気は、びっくりするほど違うんです。
テンポの速い、目まぐるしくもハツラツとしたバリのガムランに対して、ジャワのガムランは、柔らかい音が、緩急をつけながらもおだやかに流れる、まさに「癒し」の音楽と言えるかもしれません。
ピアノや吹奏楽の打楽器を経験してきたわたしですが、習い始めてからしばらくは、西洋音楽とは何もかも違う、ガムランという音楽のシステムに、ただただ戸惑いました。
ですが、あるときから、演奏中に「ふっ」と、不思議な感覚を覚えるようになりました。
温かく心地よい、音の波の中に、浮かんでいるような。
ふだんよりも、時間の流れが、少し遅くなったような。
きっと、このやさしい音楽に、脳が喜んでいるのでしょうか。こんな感覚を味わうたびに、いろいろあるけれど、希望を持ってまた進もう、と思えるのです。
マイナーな音楽の部類ではありますが、この独特の空気感を、もっと多くの人に知っていただけたらいいな。
さて、ここからは、単なる思い出話ですが。
この「ジャワのガムラン」との出会いは、今から思えば、不思議なご縁でした。
もう10年近く前のこと。当時の恋人に会いに、彼がその時暮らしていた、インドネシアの古都ジョグジャカルタを訪れたのです。そのとき、ジャワ舞踊を見物しに、観光で行ったクラトン(王宮)に行きました。
この踊りのかたわらで、ガムランの生演奏も行われていたのです。これが、はじめての出会いでした。
打楽器をやっていたわたしは、そこに並べられていた見知らぬエキゾチックな楽器たちに、興味をひかれました。
けれど。実はそのとき、その恋人とは、遠距離恋愛の末、別れるかどうかの瀬戸際だったのです。そのことで頭がいっぱいで、結局、ガムランのことには、それ以上深入りすることもなく、すぐに忘れてしまいました。
その後、彼とはお別れをし、インドネシアのことは、しばらくは苦い思い出として、心の引き出しにしまったまま。特に思い出すこともありませんでした。
数年前に結婚したあと、体調を崩していた時期があったのですが、回復しつつあったころ、突然に「ガムランをやってみたいな」と思ったのです。テレビで、インドネシアの風景を見かけた瞬間のことでした。
でも、そんなマニアックな音楽をできるところが、近所にあるとは思えない…と、軽い気持ちでネット検索をしてみたところ、いま参加しているそのサークルを見つけたのです。驚くほどのご近所に!
そうして、おそるおそる見学しに行った日から、はやくも2年ほど経とうとしており、冒頭に書いたとおり、サークルの日は、今では欠かせない至福の時間です。
あのときの恋愛は、なかなかに長く苦しいものでした。ですが、ガムラン音楽を置き土産のように置いて去っていったあの人には、ありがとう、の言葉しかありません。
苦労の多い人でしたが、どこかで幸せに暮らしていますように、と、時々は思いながら演奏しています。
今日は、なんだかノスタルジックなお話でした。